劇場用ドキュメンタリー映画「いのちがいちばん輝く日」(2012年)、「四万十 いのちの仕舞い」(17年)を発表するなど、受けつがれる「いのち」をテーマとした作品の映画監督として知られる溝渕雅幸さん(58)。最新作「結びの島」が6月26日(土)から7月9日(金)まで、シアターセブン(大阪・十三)と元町映画館(神戸)で公開される。関西では昨年10月以来の再上映。元町映画館では初公開となる。
映画の舞台は瀬戸内海の周防大島(山口県)。全国でもその人口規模に比して飛び抜けた高齢化率となっており、人口約1万5500人のうち65歳以上が占める割合はおよそ50%だという。
この島で無床の診療所と複合型コミュニティ介護施設を営む医師、岡原仁志さん(60)とその患者との交流が、1年9カ月にもおよぶ撮影映像でつづられている。
岡原さんが培ってきた診療スタイルは独特だ。患者やその家族とのハグを習慣にし、「今日もきれいだね」など、愛とユーモアにあふれた声を一人ひとりにかける。困った顔をする人も中にはいるが、そのせいもあって診療所や介護施設は絶えず明るい空気に包まれる。高齢者が最期まで安心して暮らせる地域を支え、「笑顔で大往生ができる島にしたい」と願いながら患者と接する岡原さんの日々が、島の豊かな自然と四季の移り変わりとともに切り取られている。
「島の暮らしは悠々自適に見えるかもしれませんが、ほとんどの人が体の動くぎりぎりまで働き、先祖代々の棚田やミカン畑を守っています。ミカン畑で倒れてお亡くなりになり、数日間見つけられなかったという話も聞きます」と溝渕さん。計12回、撮影日数にして35日間を島で過ごすうち、浮き彫りになってきたのは若年層の流出による後継者不足や、地域住民どうしで支え合い暮らしに安心をもたらしてきたコミュニティの限界などだという。
映画では、高齢化に伴うこうした様々な問題を提起しつつも、安易に警鐘を鳴らすだけではなく、その解決のために日々活動している岡原さんたちの姿から、高齢者が安心して暮らしていける社会のためのヒントが散りばめられている。
長引くコロナ禍で、映画の中にあるようなリアルで濃密なコミュニケーションの場も、日常では希薄となった。溝渕さんも昨年8月にPCR検査陽性で数日間入院。年末には骨折で入院した実母に長期間会えない時期も続いたなど、大切な人とのコミュニケーションがいかに貴重であったかに改めて気付いたという。こうした中での再上映に溝渕さんは、「病院や介護施設はもとより、在宅医療でもリアルなコミュニケーションは大切。それは家族との間においてもそうです。大切なものは何か?を皆さん一人ひとりの中で改めて問い直しながら、鑑賞してもらえればうれしいです」と話している。
▷6月26日(土)~7月9日(金)シアターセブン(大阪)、元町映画館(神戸)で上映。
上映中の土・日は、両館で上映後のトークショー開催を予定。いずれも監督の溝渕さんがホスト役を務める。ゲストは日替わり。7月3日(土)のシアターセブンでは上映後、パネリスト4人によるミニフォーラムを開催。柏木哲夫さん(ホスピス財団理事長)、細井順さん(ホスピス医・ヴォーリズ記念病院)、武田以知郎さん(医師・明日香村国民健康保険診療所)、佐々木慈瞳さん(僧侶・公認心理師)を迎え、「コロナ禍のホスピスと在宅医療~ポストコロナを見据えて~」をテーマに意見を交換する。
詳細は作品HPで https://www.inochi-hospice.com/